近年は中国企業が資金力を背景に海外で大型買収を進めるケースをよく耳にするが、逆に海外企業が中国企業を買収するケースも増えている。その理由は、中国に進出するにあたり一から立ち上げた場合には時間がかかることから、既存の会社を買収して「時間を買う」というものが多いだろう。また、最近は中国でのビジネス環境の変化に伴い、中国国内の会社の整理・統合を検討・実施しているケースもある。日本企業による中国企業の買収案件の相談も多くなってきている。
しかし、中国企業のM&Aは経験上リスクが高いケースが多く、それなりの覚悟を持って進めることが必要である。中国の企業は大きく分けて国家資本を中心とした国有企業と、民間の民営企業に分けられるが、特に民営企業では遵法意識が低いケースが多く、日本では考えられないような問題にあたってしまう。法律が整備され、行政手続も整理されてきているとはいえ、やはり人治の部分は大きいと感じる。 そこで以降では、現地での実体験に基づ
く中国企業のM&Aにおける留意点を順に紹介していく。

➄未整備状態の内部統制

中国の会社の内部統制の整備状況は一般的にそれほど高くなく、管理帳票が不足していることが多い。とりわけ、意図的に属人的な業務プロセスを構築し、出世競争で追い抜かれないようにするという動機が強く働いているように感じる。そのため社内のキーマンを見極め、買収後の経営関与と内部統制の整備を検討することも重要である。

➅デュー・ディリジェンス(DD)における留意点

まず基本合意書などの入り口の段階でDDへの協力義務と実施時期・範囲を明確にしておくことが重要である。ここをおろそかにすると、なかなか資料が出てこなかったり、回答が返ってこないことになる。会社を高く売却するためや、交渉を有利に進めるために駆け引きが必要となってしまう。DDの後の契約・価格交渉の流れや買収契約の仕組みを丁寧に説明し、買収後の経営方針なども含めて深い信頼関係を作ることも重要である。
なお中国企業同士の買収では、買手側が売手側に様々な「一筆」の文書を書くように依頼している事例を目にした。例えば「買手にとって、すべての必要な資料を出した」や、「売手の提出した資料には、あらゆる点で虚偽の情報は無い」といった、いわゆる買収契約の表明・保証に含まれる内容を、DDの最中に会計士や弁護士へ差し入れるよう要請された。この文書の必要性はともかく、これを早い段階で売手側に見せておくことは、価格交渉や契約締結段階まで情報を出し渋ることや虚偽の情報を出すことに利益が無いことを、売手側に意識付ける意味では、一定の効果があると感じた。

➆交渉における通訳と言語の重要性

優秀な通訳を使うことのメリットは、内容を理解し、記録を取り、自分の考えをまとめ
て、意見を述べるという煩雑な作業が軽減されることである。
中国側との交渉では、当然のことながら中国語(普通話)が中心となるが、それぞれの地域での方言が好まれる場合もある。上海で交渉をする際には、上海語の話せる上海人がいることが心強い。逆に北京で食事をしたときには、同行者が上海出身と分かった瞬間に気まずい空気が流れた。同郷の人がいることで交渉が驚くほどスムーズに進んだケースもある。 通訳やアドバイザーは中国式の交渉スタイルに通じ、同じ中国人同士の連帯感からくる共感を得るというメリットもあり、買収交渉の成否に影響を与える。

➇中国特有の交渉手続の理解と整理

中国側との契約交渉は極めて難航すると感じている。特に、「すべての契約条件はサインするまで変更可能」ということを嫌というほど思い知らされる。
交渉のプロセスでは、参加者や交渉内容を明確化する必要がある。例えば、国有企業などを相手にすると、傘下の色々な会社名の名刺を持つ人々が次々に現れ、会議へ参加するが、上下関係も良くわからず、誰が最終的な意思決定者であるかが分かりにくく、ひどく混乱した。また、基本的な理解が不足した質問も多く出るため、会議時間は往々にして長くなる傾向にあり、通訳を介した場合には、さらに時間が長時間となりやすい。
当たり前のことであるが、混乱を避けるためには、会議の出席者の席順や論点、議論の進め方などを事前にじっくりと打ち合わせしておくことが必要である。また、中国側の意思決定のプロセスを明確にしておき、会議への出席者についても、最小限に絞ることが重要である。

契約条件については、中国側からはダメもとで色々な議論を仕掛けてくるが、しっかりと理論武装をして、丁寧にかつ明確にこちらの考えを伝えることが重要だと感じる。またM&Aの最終フェーズで中国側と条件交渉していても、最後になって新たな要求を出してくることも多く経験した。基本合意書に価格算定式を入れていても、無視されて合意事項をひっくり返されることもあり、交渉自体がなかなか前に進まない場面に出くわしたこともあった。政治的な問題もあったが、中国でこの1年間のM&Aを通じて様々な驚きと発見があり、日々新鮮な経験をしている。

 

日中M&Aの留意点 – フロンティア・マネジメント株式会社より